DXPの定義や成り立ちについて詳しく解説した前回の記事に続き、今回はDXP導入の際に直面する実質的な課題を、コストと組織の観点から掘り下げていきます。
DXPを使いこなし、運用を成功させるために
DXP(デジタルエクスペリエンスプラットフォーム)の導入にあたっては、機能や仕組みだけでなく、自社のビジネスゴール、組織、スキルセット、予算などの要素を含め、中長期的な運用計画を定めて推進する必要があります。
前回の記事で、自社の戦略や要件と正しくマッチングするか、組織の中で使いこなし自走できるかが重要であり、ソリューションを導入してから、自社のサービスや組織を合わせるべきではないと述べました。これらの複雑な要素をクリアし、最適なソリューションにたどり着くことは簡単ではありません。
DXPを活用して達成したい目標を決める
DXPを選ぶ前に、まず自社の状況を客観的に分析し、DXPで達成したいビジネス目標を明確にすることが不可欠です。
- 自社のプロダクトを顧客へ提供するとき、どのタイミングで、何が起こり、どのようなアクションを起こすのか
- 組織の中の誰がDXPを使い、顧客体験の向上、収益性の強化、コスト削減などのKPIを達成するのか
- 自社が持っているソリューションやデータはどのようなものか。現在、どのように利活用できているのか
このような情報を整理し、ビジネス目標を達成するために必要な機能や能力を把握することが、ビジネスの観点から見たDXP導入の最初のステップです。
組織全体の変革が必要
DXPを導入し、ビジネス目標を達成するには、従業員の働き方、意思決定プロセス、カスタマーエクスペリエンスへのアプローチなど、組織全体の変革を必要とします。
組織体制、スキルセット、既存業務への影響、リーダーシップ、チーム内の意見の相違といった組織的な課題を乗り越えるためには多くの時間と労力を要しますが、DXP導入後の成否を決定する大事な要素です。
また、 DXPをはじめとする各種ソリューションにおける知識はもちろん、様々な組織課題に対応する知見を持った人材を自社で調達するのは難しく、相談できるパートナーの存在が不可欠です。
自社組織で運用していくことは理想ではありますが、そのためには、組織内の協力体制の構築や、従業員のスキルアップが必要不可欠です。DXPを組織内のメンバーが使いこなせるよう、相性の良いソリューションの選定、トレーニング、サポートも視野に入れて導入を検討しましょう。
考慮すべき3つのコストと効果測定の基準
DXPの導入・運用コストは、ビジネスゴールや組織内のリソース、使用するソリューションなど、多くの要素を総合的に考慮する必要があるため、一般的なシステムの導入と比べた場合、大きな投資となります。DXPのコストは、導入コスト、ソリューションコスト、メンテナンスコストの3つに分けられます。
DXPの3つのコスト
導入コスト
- 社内リソースの変革
- トレーニング
- プロジェクト管理コスト
ソリューションコスト
- 初期導入における費用(導入コンサルティングや、データとコンテンツの分析・統合、システム実装、テストなど)
- ソフトウェアライセンス費用
メンテナンスコスト
- サーバーの維持・アップデート
- サービスの24時間/365日の維持・メンテナンス
DXPの導入において、組織変更・ビジネスプロセスの設計、技術リソースの確保などに必要なコストは、製品の購入費用の数倍にも及び、コスト全体の大部分を占めることになります
前回の記事で説明しましたが、DXP はCMS、MA、CRM、DAなどの機能を含む統合型プラットフォームです。DXPを導入すれば、統合された機能に相当するソリューション分のコスト削減が期待できますが、それも織り込んだ上で上記のコストを事前に予測し、長期的な視点でのコスト管理と予算計画を立てることが、企業にとっての大きな課題です。
DXPを正しく活用すれば、顧客満足度やブランドイメージを高められることは確かですが、その効果が収益に反映されるまでには時間がかかります。広告のような単一ソリューションであれば費用対効果の測定は比較的容易ですが、DXPの効果は多岐にわたるため、効果測定が困難です。選定時には、自社に合った長期的な効果測定基準を設定することが重要です。
実はDXPの「機能」は導入済みで、使いこなせていないだけかもしれない
今日の企業は様々な会社と契約し、CMS、MA、CRM、DAなど複数のソリューションのいずれか(あるいはすべて)を導入し、運用していることがほとんどです。
しかし、せっかく導入したソリューションも、うまく使いこなすことができていない企業が多いようです。具体例としては、以下のような課題をよく耳にします。
- コスト・機能の重複:部署ごとに異なるソリューションを導入することで、機能が重複するツールが複数存在し、無駄なコストが発生している メンテナンスコスト、アップグレードの問題、互換性の問題が発生する
- データのサイロ化:異なるシステム間でデータが共有されず、情報が孤立してしまうことで、組織全体のデータの利活用が困難
- カスタマーエクスペリエンスの不統一:複数のシステムを使用することで、顧客に対して一貫性のないエクスペリエンスを提供してしまう
- 運用の複雑化:異なるシステムを管理するため、運用チームを複数構築している、属人化してしまう
- セキュリティリスクの増加:複数のシステムを使用することで、セキュリティ管理が煩雑になり、リスクが増大する
もし上記のソリューションが導入済みなのであれば、まずは現在のソリューションを活用することで、業務・データの両面でシナジーをもたせ、顧客満足度向上に寄与し、ビジネスゴールに直結した運用ができないかを検討すべきです。DXPが提供できるのはあくまでも機能です。現在抱えている課題は、本当にDXPの導入で解決できるものなのか、慎重な検討が必要です。
自社の要件にマッチしたDXPが最適解
DXPは、時代とともに新しい機能やアーキテクチャを取り込み、日々進化を遂げています。
現在はオールインワンのプラットフォームであるモノリシックDXP(従来型)から、それぞれの機能に特化したソリューションを必要に応じて選択的に組み合わせ、柔軟性の高いシステムを構築できるコンポーザブルDXP(次世代型)へとトレンドが推移しつつあります[注1]。
しかし、どちらが正解ということはありません。本記事に挙げたような課題を踏まえ、サーバーの維持・アップデート 自社にマッチしたソリューションを選択すれば、それが最適解となります。
次回は、モノリシックDXPとコンポーザブルDXPに焦点を当て、それぞれのメリット・デメリットや具体的なソリューションについて解説します。
電通デジタルではDXPの導入にあたって、課題の分析、ソリューションの選定、中長期的なKGI・KPIの設定、運用支援までワンストップでご支援可能です。ぜひお問い合わせください。
DXP連載(全3回)
脚注
1. “Critical Capabilities for Digital Experience Platforms”. Gartner(2024年2月26日)
2024年5月10日閲覧。
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