本連載の第1回ではDXPの基礎、第2回ではDXPを導入する際の組織的な課題について解説しました。今回は、モノリシック、コンポーザブルといったDXPのアーキテクチャへと視点を移し、それぞれの特徴や選択に際しての検討ポイントについて紐解きます。
進化するDXP
DX(デジタル変革)の歴史は、ソリューションの進化と軌を一にしています。現在では、多くの企業が、CMS、CRM、MAといった個別のソリューションを導入し、DXを推進しています。
DXP(デジタルエクスペリエンスプラットフォーム)もまた、時代の要求に応じて機能が拡張され続けていることは、第1回で詳しく説明しました。これによって、企業はより柔軟に、より効率的に顧客体験を向上させることが可能になりました。
企業がDXPを導入する際には、統合的なソリューションを選択する方法と、自社のニーズに合わせて複数のソリューションを組み合わせる方法があります。前者のアプローチは「モノリシックDXP」、後者のアプローチは「コンポーザブルDXP」と呼ばれています。
モノリシックDXPとは?
「モノリシック(monolithic)」という用語は、あまり聞いたことがないかもしれませんが、「一枚岩」を意味する「モノリス(monolith)」の形容詞形です。ソフトウェア工学では、ソフトウェアやシステムが要素やモジュールに分割されておらず、全部が一体化している構造をモノリシックと呼びます。
モノリシックDXPを食事に例えるなら、主菜や副菜などが1つのお皿に盛り付けられたワンプレートランチのようなものです。第1回で説明したような、CMS、MA、CRM、分析、最適化などの機能群が入っており、Webサイトの作成・編集、顧客情報の管理、パーソナライズ、マーケティング支援など、顧客体験を管理するための機能が1つにまとまっているソリューションで、単一の会社から提供されます。
モノリシックDXPのメリット・デメリット
モノリシックDXPは単一の会社が提供しているため、一貫したサービスとサポート体制、コスト効率の良さが特徴と言えるでしょう。
一方で、統合型のソリューションであるため、特定のニーズに合わせたカスタマイズが難しいケースがあります。また全ての機能を利用することが前提となるため、必要ない機能まで保有することに伴い、無駄なコストがかかってしまう可能性があります。
コンポーザブルDXPとは?
「コンポーザブル(composable)」とは、「複数の要素や部品を結合することで、組み立てや構成が可能」という意味です。
コンポーザブルDXPを食事に例えるなら、たくさんの料理の中から自分が食べたいものを取ってくるビュッフェスタイルです。自社の要件に合った機能を自由に組み合わせたり、変更・削除したりすることができるように設計されています。
コンポーザブルDXPのアーキテクチャのベースは、APIファースト、クラウドネイティブ、マイクロサービスであることです。小さな機能単位で構成されたプログラム同士が、クラウド上でAPIによってリンクし、データを共有したり、効率的に動作したりすることが可能となります。
このアプローチにより、企業はビジネスの変化やトレンドに合わせて、必要な機能を自由に組み合わせ、システムを柔軟に調整し、独自のデジタルエコシステムを構築することができます。これは、市場の変化に迅速に対応し、持続可能な成長を実現するための鍵となります。
コンポーザブルDXPとして代表的な製品には、以下のようなものがあります。
- Adobe Experience Platform
- Acquia (Drupal)
- Contentful
- Liferay
- Sitecore
コンポーザブルDXPのメリット・デメリット
コンポーザブルDXPのメリットは、その柔軟性です。自社のビジネスに必要な機能をピックアップし、最適なDXP環境を構築することができます。コンポーザブルであれば、ニッチな要件に対応する必要が出てきても、そのための機能のみを比較的簡単に組み込むことも可能となります。
デメリットとしては、統合型のモノリシックDXPと比較して、複数のソリューションを扱うため、コミュニケーションやコスト管理の面で煩雑になりがちということが挙げられます。また、各ソリューション間の統合やマネジメント、それらを使いこなすためのスキルやリソースの確保が必要となります。
モノリシックとコンポーザブル、どちらを選ぶべきか?
モノリシックDXPとコンポーザブルDXPのどちらを選択すべきかは、企業ごとに異なります。前回の記事で強調したように、自社のビジネス課題や予算、そして中長期なロードマップに基づいて最適な選択をすることが大切です。
シンプルなアーキテクチャを望み、複雑さを避けたい、大規模な IT チームを持たない企業であれば、モノリシックDXPが適しています。
一元化されたレポート・データ管理など、シームレスな統合されたシステムによって包括的な顧客体験を提供できる点や、エンタープライズレベルのサポートやセキュリティの面でも利点があると言えます。
反対に、自社の独自システムや導入済みのソリューションとの親和性を重視し、カスタマイズが必要であれば、コンポーザブルDXPが適しているでしょう。
複数のソリューションを選定し、組み合わせるため、初期投資は高くなるものの、その後の運用コストは比較的低くなることが多いようです。その柔軟性によってテクノロジーのトレンドや進化に適用しやすく、顧客体験のPDCAをすばやく回す能力を高めてくれるはずです。
まとめ
本連載では、DXPについて3回にわたって解説しました。
第1回では、「DXPとは何か?」をテーマに、DXPがマーケティングや顧客体験に寄り添う統合プラットフォームであることや、DXPが持つ機能について説明しました。
第2回では、DXPを導入する際に気をつけるポイントとして、DXPによって推進したいビジネスを整理し、社内リソース、導入済みのソリューションとの競合、コストを考慮する必要性についてまとめました。
そして第3回では、DXPのアーキテクチャに注目し、コンポーザブルとモノリシックの選択基準を紹介しました。
DXPは、顧客体験に新しい価値を創出してくれることは間違いありません。しかし、その真価を発揮するためには、単に新しい技術を採用するだけではなく、自社での運用を中長期的に実現するための綿密な戦略策定が必要です。
DXPの各機能を正しく理解し、使いこなすための見通しを立てること。自社の組織やビジネスゴールを整理すること。既存のシステムとの親和性、置き換えに伴う影響を確認することなど、導入段階でも非常に複雑で広い範囲の調整や準備が必要です。
電通デジタルはこれまでに、多くの企業にDXPソリューション導入の支援をしてきました。もちろん導入以外にも、独自のカスタマイズ、運用支援、さらにはDXPを社内で使いこなし自走するための支援が可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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